最近、ビデオ・映像・ムービー・動画などで記事タイトルがバラバラになりつつある。何が当てはまり、何がそぐわないのかは分かりません。
ただ、動画だけは検索流入が全然違います。いっそのこと統一してほしいと思う今日このごろ・・。
さて、今回は映像編集をするうえでのキャリブレーション(再現統一化)のお話。
キャリブレーションとは制作上の色味を正確に調整するという意味を持つが、ここでは表現が正しく第三者(視聴者)に伝わるのか?という枠でお話します。
映像制作の現場では制作環境によって色味・輝度が大幅に違うことがあります。例えばピンクや黄緑。黒や白と違い様々な色が重なり合って表示されている。
プレビューモニターでピンクをピンクとして調整した場合、実際に見る人達はピンクとして認識するのでしょうか?はたまた赤として認識してしまうかも?
音声も然り。中域に絞って加工したつもりが、テレビで聞いたらシャリシャリだった等。
このように制作環境での色味・輝度・音質などは必ずしも視聴者と同じとは限らない。
自分の意図しない形で相手に伝わってるとしたら・・本末転倒ですよね。
グラフィックや映像制作など、色味や明るさが重要となる作業はこのキャリブレーションをとっておかないと視聴者に正確に見てもらえなくなるんです。
尚、この記事は詳細にツールを使ってのキャリブレーションの仕方や、カラーマネージメントなどの難しい話は出てきません。
同じような情報乱立させても意味ないですから。それに放送局での知識は持ち合わせてません。あくまで経験としての話です。あしからず。
映像のキャリブレーション対象とは
グラフィックなどの印刷物を例にする場合、最終出力は「紙」オンリーなわけです。
(電子書籍は省く)なので、モニター、カラーチャート(色見本)、プリンター出力でだいたいの統一作業が楽にできます。印刷会社から色稿が出れば一目瞭然。
では映像はどうでしょうか?
編集画面モニター、プレビューモニター、波形スコープ、エンコード処理ソフト、パッケージメディア、映像ファイルのフォーマットなど。音声も、ヘッドフォン、アンプ、スピーカー、VUメーターがあります。
そして様々な再生機器、ネットブラウザやプレーヤー。しかも視聴する方の再生方式で見え方・聞こえ方は全く変わってきます。
このようにクサるほどキャリブレーション範囲が多い。正直全部は無理な話です。一つ一つ調整しようにも何が正しいのか分かりませんしね。
既にみなさんが編集している映像素材は本来の形そのまま再現されているのか怪しいところです。では、どうやって映像のキャリブレーションをとればいいのか?
キャリブレーションの前に眼科に行く
まず第一に正確な色の把握は自分の目の性能で決まる。
目の病気にかかってる人が映像制作を行う場合、色・輝度・水平などは正常な人に比べて違ってきます。ただでさえ目を酷使する仕事、年1回は眼科検診をおすすめします。
私の元いた会社の社長は俗にいう「鳥目」でした。鳥目とは網膜色素変性症のひとつで
暗い場所での視野狭窄がおこる症状です。歳を重ねていくと症状も強まる。
ある日、撮影していると露出を上げろとスイッチャー(社長)がうるさく言っている。オートで確認してみても適正よりオーバーな指示だ。
マスモニの調整は変えていないし、おかしいな~と思いそのまま撮影。結果トビ気味であった・・。
その日あたりを境に社長は現場を控えている。病気とは知らずに自分の目が正常であると認識していれば、取り返しのつかない映像が山ほど出来上がるだろう。
他にも色盲・加齢黄斑変性・若い人にも多い中心性網膜症なども注意したい病気だ。目は映像屋にとって大切な商売道具の一つ。
メンテナンスは機材よりも重要かもしれない。
プレビューモニターは編集の命!出来るだけ標準に近づけること
映像編集でのプレビューモニターとは画面内のオーバレイ表示ではなく、外部出力デバイスからの映像画面のことをいいます。
24インチくらいが多いのではないでしょうか。映像編集では一番重要な画面であり、これが無いとキャリブレーションどころではない。
このプレビューモニターはテレビやパソコン用のディスプレイを使う場合があるのですが
圧倒的にPC用の液晶ディスプレイが多いです。理由としてはテレビでこのサイズだとフルHDのものが無い(少ない)ということと、プログレッシブ方式であることが上げられます
いまさらですが、インターレース、プログレッシブって何?
さて、モニターを標準値に?って言われても、そもそもメーカーによっても差は出ます。なので以下だけ気をつけてください。
色設定(色合い・明るさ)は初期出荷状態にすること
これは良い性能のディスプレイ前提です。価格でいえば5万以上でしょうか。粗悪なディスプレイでは基本の色はおろか設定さえもいじれませんから。
初期出荷状態とは設定を何もいじっていないということ。いじっていないということはメーカー側の設定である。
明らかに自分よりはメーカーの方が色には詳しいはずだ。これを初心者が好みの色に塗り替えると正確な色とはほど遠くなる恐れがある。
液晶パネルは年数が経てば光量・色味は落ちますが、まずは初期設定で試してください。
階調出力(色グラデ)・垂直・水平が正確に表示されているか
これはほとんどの編集ソフトに装備されているマルチフォーマットカラーバーで確認できますよね。
色階調表現を詳しく知りたい方はEIZOさんのサイトをどうぞこちら
少なくとも水平・垂直は確認しておくこと。階調はほとんどのテレビだとつぶれてしまいますからおおよそ判別できるくらいで良しとしましょう。
色温度は部屋の照明で選ぶ
9300.6500.5000(k:ケルビン色温度)が基本設定にあるかと思いますが、基本は6500です。
色温度とは主に赤~青で表示され、たとえばビデオカメラでホワイトバランスをとるとき、3200kなら3200kで白いものが白く映るということになります。
基本6500kとはディスプレイを見ている環境が6500kだろうという目安。色温度は約12000kから2000kの範囲で識別されますが、数値が高いほど青みが増す。
色温度が一番高いのは晴天時の空。一番低いのは夕暮れやロウソク程度の明かり。
6500kは主に室内での照明環境に由来するところが大きいです。
日本のテレビは9300kらしいのですが、これは日本だけだそうだ。詳しくはこちら。
どちらにせよ、編集環境の照明が暖色(赤)ならばディスプレイの色温度は低く(赤)設定したほうがいい。逆ならば高く設定する。
しかし、物理的な発色をするディスプレイと脳が感知する発色では誤差が出る場合もあるので一概に決められることではないかもしれない。
要は
白が白く見える環境を作るということ
カメラがあれば室内色温度は簡単に知ることができる。オフ画面に白い紙を貼り、ホワイトバランスをとればその数値がその環境での色温度である。
民生カメラで数値が表示されるのかは不明ですが、室内色温度を知ることで調整材料を得ることができます。
余計な色味が差し込まないようにするために真っ暗な環境で編集される方がいますが、長くこの仕事を続けたいならやめたほうがいいです。目が劣化するし、古い習慣です。
照明の直射に気をつけておけば不必要に暗くする意味はない。
映像のキャリブレーションは最終出力で判断する!
さて、話が長くなってしまいましたが(笑)ここからが本番です。冒頭で映像制作はソース入力が多いという話をしました。
撮影、記録メディア、編集、ディスプレイ出力など、ひとつひとつ確認作業を行うよりは最終出力媒体で「どう表現される」かが一番手っ取り早い&確実性が増すというお話です。
最終出力とはグラフィックでいえば紙媒体などの印刷物が多い。映像ではテレビや動画サイト上でのプレーヤーだろう。グラフィックとは製作工程こそ違いますが、最終出力を確認しやすいかどうかでは映像の方に軍配が上がります。
いちいち制作過程で印刷屋が出力してくれるわけないからです。ここが映像の強みとも言えます。
では映像の最終出力メディアをDVD/BDとネット配信動画の二つに分けて考察します。
DVD/BDの場合
最終出力がDVDだとすれば、すぐにテレビとDVDプレーヤーさえあれば確認できますよね?。ここで重要なのが「普段毎日使っているテレビ」で見るということ。
毎日見ているテレビだと標準画質は記憶に残っている場合が多く、色味や明るさなどの違いも分かりやすい。音量や音質も同様。普段の適正音量で聞いてみて、もし小さいならば対策をしないといけないことがすぐに分かる。
仮にテレビが本来の色を表現していなくても、制作工程との差は把握しやすいと考えます。
そもそもテレビとはメーカー設定などにより画質も違うというのが当然の仕様。
まずは製作工程と最終出力(DVD/BDである場合)であるテレビのキャリブレーションをとることが重要である。※ あくまで個人的な意見です。世評とは違います。
しかし編集プレビューモニターがテレビの場合は気をつけよう。普段の「番組を見ているテレビ」でないと他素材(番組)との差が分かりにくいからだ。
しかも大きい画面のほうが差がわかりやすいし、視聴者(お客)は37インチ以上が多いかと思われる。
マスモニの重要性もあるのだが、ベクトルスコープさえあれば放送局以外の映像制作ではほとんど意味はない。
誰もそんな高い機材で見る人間はいないからだ。いくら厳密に黒階調を施してみてもテレビではほとんど黒が潰れてしまってることだろう。
ネット配信動画の場合
アップロードされた動画を見ればいいだけなのだが・・困ったことにネット動画というものはDVDなどのテレビ媒体と違い、再生環境によって大きく見え方が違う。通信速度の差やデコード処理の問題も出てくる。
音ズレなんかはタイミング重視のPVにとっては命とりだろう。エンコード設定やフォーマットには十分注意してアップロードしたい。
特に昨今はYoutube動画制作で映像ファイルを作る場合が多く、DVDなどと同じようにNTSCであるテレビをプレビューモニターとする場合、変換に気をつけねばならない。
プログレッシブとインターレースの違いで見え方も違ってくるのだ。プログレオンリーなネット動画制作を行う場合、工程は全てプログレで行うことは必須である。
自分が表現したモノは必ず相手にも伝わるとは限らない
やれ4kだの8kだのといった新規参入が増え始める昨今、テクノロジーの進歩でネット動画などはさらに再生格差が生まれることを予測する。
素晴らしい映像表現が100%相手に伝わろうとすることなど期待してはいけないのだろうか。そもそも映像表現のあり方が変わってきているのかもしれない。
いくら再生環境の統一(ここではキャリブレーション)をしてみても、それはこちらの白
とアナタの白を合わすためである。ハナから白など見ていない人達にとってはキャリブレーションなど意味すらないのだろう・・。
正しい再生で記録を行う映像表現、個を遺憾なく発揮させる映像表現、そしてコミュニケーションツールとしての映像表現。
あり方は様々だが、私たち映像制作者が行う作業は見る人がいてこその映像制作。それ以上それ以下でもない。
真摯に映像と向かいあって、これからも生き抜いていこうかと思います。
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